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「てんかん」について
 ここに提示いたしますのは、「てんかん」の概観を理解していただくための一般向けの広報です。
出典は、アメリカ合衆国のNIH(National Institute of Health)のなかのNINDS(National Institute of Neurolosical Disorder and Stroke)が一般向けのホームページに掲載した案内です。

目次

1.はじめに
2.てんかんとは何か
3.てんかんの原因
4.けいれん発作の種類
5.てんかんの分類
6.けいれん発作がてんかんではない場合
7.てんかんの診断
8.てんかんの予防
9.てんかんの治療
  <<内服治療>>
  <<外科的治療>>
10.治療装置による治療
11.食事治療
12.その他の治療戦略
13.てんかんが日常生活に与える影響
   −−−感情や行動、
運転、教育と仕事、妊娠と分娩−−−
14.てんかんに伴う特有な危険性
15.てんかん発作を目撃した時にはどうすべきか
16.結語




1.はじめに

てんかん発作の容態に匹敵するような経験は殆どありません。重症のけいれん発作を起こす人では、泣き叫んだり、意識を失って床に倒れたり、体の激しい動きを制御できなかったり、よだれを流したり失禁したりします。数分以内に発作は停止し患者は意識を取り戻しますが、消耗しボーっとしています。てんかんという言葉を耳にしたときには、多くの人たちがこうした様態を思い浮かべます。しかしこうしたけいれん発作(全般性けいれん)はてんかんのたった一つの種類にすぎません。このほかにも種類はたくさんあり、それぞれが異なった症状を呈します。

てんかんは記述された脳疾患の中では最も古いものです。3000年以上前の古代バビロンにもその記述が認められています。ある種のてんかん発作に伴う奇妙な行動は、古くから多くの迷信や偏見を生み出してきました。てんかん(epilepsy)という言葉は、ギリシャ語の「発作」を意味する言葉から派生しました。かって人々は、てんかんを持つ人たちには悪魔や神が憑りついていると考えていました。しかし紀元前400年に当時の医師であったヒポクラテスは、てんかんが脳の病気であることを示唆しました。現在ではそれは周知の事実となっています。

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2.てんかんとは何か

てんかんとは、脳内の一群の神経細胞(ニューロン)が時々異常な電気信号を発生する脳の疾患です。正常なニューロンは人間の思考、感情、行動を生み出すために、他のニューロンや分泌腺、筋肉などに向けて電気化学的な刺激を生み出します。てんかん発作の場合にはニューロンの正常活動が混乱し、異常な知覚や感情と行動、時には全身けいれんや筋肉の攣縮、そして意識消失の原因となります。てんかん発作時には正常活動の時よりはるかに高い頻度、つまり秒間に500回という刺激発射をニューロンは行います。こうした発作を稀にしか起こさない人もいれば、一日に数百回起こす人もいます。

合衆国内では二百万人以上の人々(約100人に1人)が、発作を経験するか或いはてんかんの診断を受けています。そうしたてんかんの診断を受けた人々の約80%は、現代の内服薬や手術治療によって発作をコントロールできています。しかしてんかん発作を起こす人々の約25-30%は、最良の治療を行っても発作が継続しています。こうした状況は難治性てんかんと呼ばれています。一度発作を起こした人がすべててんかんと言うわけではありません。2回かそれ以上の発作が起きた場合に限りてんかんと考えてよいでしょう。

てんかんは感染するものではなく、精神病や発達遅延から起こるものでもありません。発達遅延のある人々にてんかん発作が起こることは時々ありますが、発作があるからと言ってその人に知的障害が必ず生じるものではありません。てんかんを持つ人たちの多くは、正常かそれ以上の知性を持っています。てんかんを持っていると知られているか、或いはそうした噂があった人々の中でも有名なのは、ロシアの作家ドストエフスキー、哲学者ソクラテス、軍人ナポレオン、ダイナマイトを発明しノーベル賞の生みの親であるアルフレッド・ノーベルです。オリンピックのメダリストやそのほかのスポーツ選手にもてんかんを持つ人たちがいます。てんかん発作は、特に重症の発作の場合には、時として脳に損傷を与えます。しかし殆どの発作は、脳に障害を残しているようには見えません。何か異常があったとしても普通はごく僅かなものですし、またそれがてんかん自体によるものか、或いは発作の原因となっている基礎疾患によるものか、多くの場合には特定することはできません。

現在てんかんが治癒していなくても、自然に発作が消えてしまう人々もいます。ある研究では、特発性てんかん(原因不明のてんかん)を持つ児童の68-90%は診断後20年以内に発作の消失したことが示されています。成人の場合や重症発作の児童では発作消失の確率はこれほどよくはありませんが、とにかく時間経過に従い発作が減少したり消失したりする可能性はあります。内服薬治療が効果的な人たちや手術を受けた人たちの場合には、この確率はさらに高まるようです。

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3.てんかんの原因

てんかんの原因には数多くのものがあります。一般的な病気から脳の外傷や発生異常に至るまで、ニューロンの正常活動パターンを乱すどんな疾患でもてんかんの原因となりえます。

てんかんは脳の回路異常、ニューロトランスミッターと呼ばれる神経伝達物質の過不足、或いはそうした要因の複合によって起こることがあります。研究によると、てんかんを持つ人の中には神経活動を増幅する興奮性ニューロトランスミッターの異常に高い人たちがいる一方、神経活動を抑制する抑制性ニューロトランスミッターの異常に低い人たちもいるということが明らかとなっています。いずれの場合にも、結果的には神経活動が過剰となっててんかん発作が起こります。てんかんに関してもっともよく研究された神経伝達物質はGABA(gamma-aminobutyric acid)で、これは抑制性ニューロトランスミッターです。GABAの研究によって脳内のこの神経伝達物質の量を変化させたり、この伝達物質に対する脳の反応を変化させたりする薬が開発されました。グルタミン酸などの興奮性ニューロトランスミッターの研究も進んでいます。

頭部外傷や脳卒中の後に脳は自己修復をしますが、偶然に異常な神経回路のできることによっててんかん発作が発生する場合があります。神経回路の異常は脳の発生の段階に起こることもあり、神経活動が乱れることによってやはりてんかん発作の原因となります。

てんかんの発生に関して、神経を包んでいる細胞膜の重要な役割が研究によって明らかとなりました。細胞膜は神経が電気信号を発生させる際になくてはならないものです。こうした理由で、細胞膜の詳細な構造についてや、分子がどのように細胞膜を出入りするのか、或いはどのように細胞が膜を栄養し修復しているのかなどについて、多くの研究者が研究を進めています。こうした過程のどこの部分に障害が生じても、てんかんの発生する可能性があります。動物実験が明らかにしたところによれば、脳は常に刺激の変化に適合しようとするために、神経活動のわずかな変化でもそれが繰り返し発生すれば、結果として完成されたてんかん発作が起こりうるということです。神経発火と呼ばれるこうした現象が、人間でも発生しているのかどうかについての研究が進められています。

一部の症例では、グリアと呼ばれる神経ではない脳内細胞によっててんかんが発生します。この細胞は脳内の化学物質の濃度を調整しているので、神経細胞の活動に影響を与えています。

約半数のてんかん発作では、病的原因が特定されません。しかし他の半数の症例では、感染や外傷、その他の特定できる疾病が、てんかん発作の明白な原因となっています。

*遺伝的要因
遺伝的要因がてんかんに関与する重要な因子となっていることを研究結果が示唆しています。いくつかのタイプのてんかん発作は、特定の遺伝子異常に関連しています。また他の多くのてんかん発作が家族内で発生する傾向にあり、この事実は遺伝子がてんかんに影響を与えていることを示します。500以上の遺伝子がこの疾患に関連しているという研究者もいます。しかしてんかん発作の多くのタイプでは、遺伝的要因は部分的な役割しか果たしていないことが徐々に明らかとなっています。恐らくその個人にてんかんの発生しやすさという遺伝子的要因があって、そこに環境的因子が作用することによって発作が発生するものと考えられています。

ある種のタイプのてんかんは、イオンチャンネルに関与する遺伝子の欠損が原因となっていることが判っています。イオンチャンネルというのは、細胞の中と外のイオンの流れを制御している関門で、神経細胞の電気信号をコントロールしています。進行性ミオクローヌスてんかんを発症する人たちで欠損が確認された別の遺伝子は、システインBと呼ばれるタンパク質の合成をコード化するものです。このタンパク質は他のタンパク質を分解する酵素の制御をしています。LaFora病と呼ばれる重症てんかんでは、炭水化物の分解に作用する遺伝子の変異が認められています。

遺伝子異常は時にてんかんの明白な原因となっていますが、もう少し些細な影響を与えている場合もあります。例えばある研究によれば、てんかんを持つ人々では薬物耐性の増加に関係する活性型遺伝子の異常が示されています。これによって、抗てんかん薬があまり効果を示さない人々のいることをうまく説明できます。薬物に対する身体反応や個々人の発作の起こしやすさ、即ちてんかん閾値に影響を与える遺伝子もあります。神経細胞の移動(脳の発達に必須)に関与する遺伝子の異常は、神経細胞の分布異常や脳の形成不全の原因となり、やはりてんかん発作の原因となります。てんかんの家族歴が認められない人々の場合にも、遺伝子がてんかん発症に影響している場合があります。こうした人たちの場合には、てんかんに関与する遺伝子上で変異と呼ばれる新たな遺伝子異常が起こったと考えられます。

*その他の疾患
多くの症例では、てんかんは他の疾患による脳の損傷が原因となって発生します。例えば、脳腫瘍、アルコール中毒、アルツハイマー病などは、脳の正常な活動に異常を発生させるので度々てんかんを起こします。脳卒中、心臓発作、その他脳の酸素欠乏を起こす疾患においても、てんかんを起こす場合があります。新たにてんかん発作を起こした高齢者の約32%では、脳への酸素供給が不足する疾患、即ち脳血管障害がその原因と言われています。髄膜炎、AIDS、ウィルス性脳炎などの感染性疾患は、脳に過剰の水が貯留する水頭症を発生する場合がありますが、同じようにてんかんの原因となることもあります。大麦のグルテンに対する不耐症(セリアック病)や寄生虫の脳への感染(神経嚢虫症)などもてんかんの原因となります。こうした疾患が一旦治療されると、てんかん発作も治る可能性があります。しかし原因疾患の治療後に完全に発作の無くなる確率は、原因疾患の種類、侵された脳の部位、治療前に生じた脳障害の程度などによって様々に異なります。

脳性麻痺、神経線維腫症、糖原病、結節性硬化症、Landau-Kleffner症候群、自閉症などの様々な発達、代謝異常でもてんかんの合併が認められます。こうした疾患の人たちに共通してみられる徴候の中の一つがてんかん発作と考えてよいでしょう。

*頭部外傷
頭部外傷がけいれん発作やてんかんの原因になることがあります。車内でのシートベルトの装着、バイクや格闘技系スポーツにおけるヘルメットの着用によって、頭部外傷後のてんかん発作が予防できる可能性があります。

*周産期障害と発育障害
発育段階の脳は種々の障害を受けやすいといえます。母体感染、低栄養、低酸素などは発育中の胎児の脳に大きな影響を与えます。こうした条件下ではてんかん発作の合併する脳性麻痺が起こりやすく、また疾患とは関係なくてんかんの原因となる場合もあります。小児期のけいれん発作の約20%は脳性麻痺かその他の神経異状によるものです。発達に影響を与える遺伝子の異常がてんかんの原因となることもあります。明白な原因疾患のないてんかん発作の一部の症例は、分娩前に生じた脳の局所的発育不全によるものであることが、近年の進歩した脳の画像検査で明らかになってきました。

*中毒
鉛や一酸化炭素、その他毒物への被爆がてんかん発作の原因となることがあります。また街角で売られる薬物、過剰な抗うつ剤、その他の薬物などでもてんかんが起こることがあります。

睡眠不足やアルコールの過剰摂取、ストレス、生理周期に伴うホルモン変化などがけいれん発作の引き金になる場合があります。こうしたけいれん発作の誘発原因は直接てんかんの原因となることはありませんが、初発のけいれん発作や、薬物治療によって良好な発作コントロールが得られた人の突発的な発作を引き起こすことがあります。特に睡眠不足は、どんな状況下でも強力なけいれん発作の誘因になります。こうした理由により、てんかん患者は十分な睡眠をとるべきであり、可能な限り規則的な睡眠習慣を維持するように心がける必要があります。一定の速さの光の明滅やコンピューター画面のフリッカーがけいれんの引き金になることもあります。これは光感受性てんかんと呼ばれています。喫煙が誘因となることもあります。タバコの中に含まれるニコチンは、脳内の興奮性神経伝達物質であるアセチルコリンのレセプターに作用して神経の興奮性を高めます。ごく稀なケースを除けば、性行為によってけいれんが誘発されることはありません。

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4.けいれん発作の種類

けいれん発作の種類には30以上の異なるものがあります。発作は、部分発作と全般性発作という二つの大きなカテゴリーに分類されます。しかしこうしたカテゴリーの中に種々の異なったタイプが含まれてます。

*部分発作
局所性発作とも呼ばれる部分発作は、脳の一部分だけで起こります。てんかん患者の約60%は部分発作です。こうした発作はその発作の起源となっている脳の部分によって記述されることがしばしばあります。例えば前頭葉部分発作などといった診断です。

単純部分発作の場合には患者の意識は保たれていますが、様々な形態の異常感覚や知覚を患者は体験します。突然の説明できない歓喜、怒り、悲しみ、嘔気などの感覚を経験するわけです。また現実とは異なる聴覚、嗅覚、味覚、視覚、触覚を体験することもあります。

複雑部分発作の場合には、患者は意識の変容や喪失を発生します。つまり意識が混濁し夢を見ているような体験をします。複雑部分発作の患者は、奇妙な繰り返し運動、例えば瞬き運動や顔のゆがみを繰り返したり、口をもぐもぐ動かしたり、円周状に繰り返し歩き回ったりもします。こうした反復運動をオートマティズムと呼びます。合目的にさえ見えるもっと複雑な運動を無意識的に起こすこともあります。患者は発作の始まる前に行っていた行動、例えば皿洗いなどを無意味に繰り返し継続することもあります。こうした発作は殆どの場合には5-6秒間持続して終了します。

部分発作、特に複雑部分発作の患者は、前兆という差し迫った発作を警告するような異常感覚を経験します。こうした前兆というものは、実際には患者の意識が保たれた状態で発生する単純部分発作なのです。個々の患者の徴候とその進展は、毎回同じで定型化しています。

部分発作の症状は他の疾患と混同されることがあります。例えば複雑部分発作に伴う夢見心地の感覚は、同様の夢想状態を引き起こす片頭痛発作と誤診されることがあります。部分発作による異常行動や異常感覚は、ナルコレプシー、詐病、精神疾患などの症状と解釈されることもあります。てんかんと他の疾患の違いを見極めるために、経験豊かな医師による多くの検査やモニターリングが必要になることもあります。

*全般性発作
全般性発作は異常な神経活動が両側の脳に発生して起こります。こうした発作は意識障害や転倒、激しい筋肉のけいれんを伴います。

全般性発作にはいろいろな種類があります。欠神発作の場合、患者は空中を凝視しているように見え、筋肉のひきつれやゆがみを伴うことがあります。こうした発作を「小発作」と呼ぶこともありますが、これは古い用語です。強直性発作は体の筋肉、特に背部と四肢の筋肉の異常硬直を引き起こします。間代性発作では、両側の体の筋肉の規則的な収縮運動が繰り返し起こります。ミオクローヌス発作では、上半身や四肢のランダムなひきつれが起こります。脱力発作では正常な筋緊張が失われます。患者は突然倒れてしまったり、不用意に頭がガクッと落ちる結果となります。強直性間代性発作では症状が組み合わさっており、意識消失と同時に、全身の異常硬直と四肢筋肉の規則的な収縮を繰り返します。この強直性間代性発作は時々古い用語で「大発作」と呼ばれることがあります。

すべての発作が部分発作か全般性発作に即座に区別できるわけではありません。部分発作で始まり、その後脳全体に発作が広がっていく場合もあります。両方の発作が存在し、不規則に絡み合う場合もあります。

様々な種類の発作に対する社会的認知の欠如が、てんかんを持つ人々にとって大きな問題となっています。けいれんを伴わないてんかん発作を人が目撃する場合、患者の意思ではコントロールできないにも拘らず傍目には意識的な行動のようにも見えるので、その行動を理解することがはなはだ困難となります。時には患者は逮捕されたり、精神病院に収容されたりすることもあります。こうした問題に対処するためには、様々な種類のてんかん発作とそれらがどのような症状を呈するのかについて、すべての人々がよく理解する必要があります。

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5.てんかんの分類

けいれん発作に様々な種類があるのと同じように、てんかんにもたくさんの種類があります。医師たちは数百に及ぶ種類のてんかん性症候群(てんかんを含む特定の徴候をいくつか併せ持つ事で特徴づけられる疾患)を確認しています。これらの疾患の中には遺伝性のものもあります。また原因不明の疾患もあります。てんかん性症候群は、その徴候によって、或いは疾患の発生する脳の部位によって記載されることがしばしばあります。てんかんが示す症状の意味について医師と相談する時には、症状の概略や可能な治療法、そして予後について十分に理解できるように努めるべきでしょう。

欠神発作のある人々は一時的な意識の喪失を繰り返し起こします。この発作は幼少期から青年期に発病することがほとんどで、家族性に発症する傾向にあることから、この病気が少なくともある部分では遺伝子の欠陥によって発生するものと考えられています。欠神発作を有する人たちの中には、発作の間腕の上下運動や素早い瞬きといった意味のない行動を示す人たちがあります。また「空白の時間」という短時間の意識喪失以外には何も症状を示さない人たちもいます。どんな行動をしていたとしても、発作の直後には患者は元の状態に戻ることができます。しかしこの発作は頻回に繰り返して起こるので、患者は学業や仕事などに集中することができません。幼少期の欠神発作は普通思春期になると消失します。普通この欠神発作は、知能や他の脳機能に永続的なダメージを残すことはありません。

側頭葉てんかん(TLE:Temporal lobe epirepsy)は、部分発作を呈するてんかんの中では最も頻度の高いものです。この発作にはしばしば前兆が伴います。多くの場合TLEは、幼少期に発症します。研究が示すところによると、側頭葉てんかんを繰り返して起こした場合、時間経過とともに海馬と呼ばれる脳の部分に萎縮が起こります。海馬は記憶と学習にとって重要な部分です。側頭葉てんかんによって海馬の明らかな障害が発生するためには数年を要しますが、この知見からするとできるだけ早期に効果的な治療をTLEに対して行う必要があるといえます。

新皮質てんかんは、脳の皮質(脳の表層部)にその原因が存在することで特徴づけられています。発作は部分発作のこともありますし、全般性発作のこともあります。その発作には、異常感覚、視覚的幻覚、気分の変容、筋肉の攣縮、全身けいれんなど、原因疾患の部位によって多種多様な症状があります。

てんかんにはこの他にも多くの種類があり、それぞれに特徴的な症状を呈します。レノックス・ガストー症候群やラスムーセン脳炎などのように、こうした多くのてんかんは小児期に発症します。レノックス・ガストー症候群の患児は、いくつかの異なった種類のけいれん発作を伴う重篤なてんかん症状を呈します。その中には脱力発作も含まれており、この発作により突然の転倒を起こすために、転倒発作とも呼ばれています。この重篤なてんかんは効果的に治療することが大変に困難です。ラスムーセン脳炎では、一方の脳に断続的な炎症を起こすし、進行性のてんかん発作が起こります。この病気の場合には、半球切除という大掛かりな手術によって治療されることが時々あります。(手術治療の項を参照)小児期のてんかん症候群は、小児期の欠神発作のように、青年期になって軽快傾向を示しその後全く起こらなくなるものがありますが、一方で若年性ミオクローヌスてんかんやレノックス・ガストー症候群のように、一旦発症すると生涯にわたって継続するものもあります。しかし、てんかん症候群は常に小児期に発症するものとは限りません。

治療が容易で認知能力や発達に影響を及ぼさず、また自然に消失してしまうてんかん発作はよく良性であると表現されます。良性のてんかん症候群には、良性若年性脳症や良性新生児けいれんがあります。若年性ミオクローヌス脳症のような他の症候群では、神経学的、発達学的な障害を合併します。しかしこうした障害は、けいれん発作によって生じるというよりも潜在する神経変性の進行によって引き起こされると思われます。けいれん発作や患者の認知能力が時間の経過とともに悪化するタイプのてんかん症候群は、進行性てんかんと呼ばれています。

いくつかのてんかんは乳幼児期に発症します。乳幼児期のてんかんで最も多いタイプは点頭てんかんで、一連のけいれん発作が月齢6か月以内に発症します。このけいれんが起こると患児は体を屈曲させて泣き叫びます。多くの場合この点頭てんかんには抗けいれん剤が効きませんが、このけいれん発作はACTH(副腎皮質刺激ホルモン)やプレドニソロンで治療できます。

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6.けいれん発作がてんかんではない場合

けいれん発作は大きな注目の対象となりますが、けいれん発作があるからと言って必ずしもその人にてんかんがあるという訳ではありません。例えば、初発のけいれん発作、熱性けいれん、非てんかん性発作、子癇は、てんかんに合併するけいれん発作ではありません。

*初発のけいれん
多くの人々は人生のある時点で一回だけのけいれん発作を経験します。しばしば起こるのは麻酔や強い薬物の影響下ですが、誘発された発作ではないもの、即ち明確な原因が判らない発作もよく見られます。脳損傷がなく、てんかんの家族歴もなく、その他の神経学的異常が認められない場合には、こうした単発のけいれん発作はその後に発作を繰り返すことは殆どありません。8年間の追跡調査を行った最近の研究成果によれば、初回の発作から4年以内に2回目の発作を起こした症例はわずかに33%であったことが示されました。その期間内に2度目の発作を起こさなかった患者は、全追跡期間を通じ発作を起こすことはありませんでした。2度目の発作を起こした患者では、4年以内に3度目の発作を起こす確率は73%でした。

初回発作を起こした場合、普通医師は脳波検査を指示し、どういうタイプのけいれん発作であったか、或いは脳波上に明らかな異常が認められるかどうかについての診断を試みます。また医師は脳スキャンによって明らかな脳の異常が見つかるかどうかを確認します。こうした検査は、抗けいれん剤を投与すべきかどうかの決定に役立ちます。初回発作後の薬物治療によって、将来起こるべきけいれん発作やてんかんを予防できることもあります。しかし薬物には脳機能を低下させる副作用がありますので、利益がリスクを上回ると判断したときにのみ医師は薬物の処方を行います。大規模な研究成果によると、2度目の発作が起こった場合にはその後に発作を繰り返すリスクが高いので、抗けいれん剤の投与を開始する利益のあることが示唆されています。

*熱性けいれん
時々子供たちは、高熱を伴う疾患の過程でけいれん発作を起こすことがあります。こうしたけいれん発作のことを熱性けいれんと呼びますが、両親や世話をしている人たちにを大変に慌てさせる現象です。過去においては、熱性けいれんが起こった後てんかんの予防のために、医師たちは抗けいれん剤の処方を行っていました。しかし熱性けいれんを起こした子供たちの殆どは、その後にてんかんを発症することがない上に、小児期の長期に渡る抗けいれん剤の使用は、成長期の脳に障害を与えたり、その他の不利益な副作用の原因となったりする可能性があります。国立衛生研究所(NIH)の主催した1980年のカンファレンスに参加した専門家たちは、熱性けいれん後の抗けいれん剤の投与は、一定の条件がない限り行うべきではないという結論を出しました。その条件というのは、家系的にてんかんの素因がある場合、けいれん発作に先行する神経系の障害が存在する場合、けいれん発作が比較的長期間継続するか合併症の伴う発作である場合です。熱性でないけいれん発作がその後に起こるリスクは、こうした条件が認められない場合には高々2-3%に過ぎません。

特定の家系の中で熱性けいれんのリスクに影響を与えるいくつかの遺伝子が、研究者たちによって同定されてきました。こうした遺伝子の研究によって、熱性けいれんの発症メカニズムやその予防法についての新しい知見が得られるでしょう。

*非てんかん発作
脳がてんかん性の活動をしていない場合
でも、時にけいれん発作が起こっているように見えることがあります。こうした現象には、非てんかん性発作とか偽けいれん発作などといった、いくつかの呼称があります。こうした呼称の意味するところは、けいれん発作のように見えても本当のけいれん発作ではないということです。精神的な原因によって起こる発作を精神性けいれんと呼びます。精神性けいれんの意味するものは、精神的依存、注目の欲求、ストレスの回避、特殊な心理的状態などです。てんかんを持つ人々の中には本来のてんかん発作に加え、こうした精神性けいれんを起こすことがあります。精神性けいれんを示す人々の中には全くてんかんとは無関係の人がいます。精神性けいれんはてんかん性けいれん発作と同じような治療はできません。その代りに彼らは、メンタルヘルスの専門家によって治療されます。

その他にも非てんかん性発作は、ナルコレプシー、トゥーレット症候群、心臓の不整脈、その他けいれん発作に類似した症状を呈する医学的状態によって発生します。こうした疾患の症状は大変てんかん性けいれん発作に似ているため、てんかんとしての誤診を受けることが頻繁です。真正のてんかん性けいれん発作と非てんかん発作を判別することはきわめて難しく、総合的な医学的検査や注意深い経過観察、経験豊かな専門家が必要となります。脳スキャンやモニター技術の進歩によって、将来非てんかん発作の診断はさらに改善されるでしょう。

*子癇
子癇は妊娠した女性に発生する致命的ともなりうる病態です。その症状は急激な血圧の上昇とけいれん発作です。妊娠女性に予測しなかったけいれん発作が発生した時には、直ちに病院へ搬送すべきです。子癇は病院施設で治療可能であり、妊娠が終了すれば、その後にけいれん発作やてんかん発作を普通は起こしません。

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7.てんかんの診断

てんかんがあるかどうか、またあるとしたらどんなタイプのてんかんかどうか、そうした診断を下すための検査がいくつかあります。けいれん発作と大変によく似た症状を持つ人々が、実は他の疾患によって引き起こされた非てんかん性発作である場合があります。こうした疾患とてんかんの差異については、綿密な観察と詳細な検査なしでは、医師でさえもはっきりと判らないことがあります。

*脳波
脳波は、頭皮上に設置した電極を通じて脳の電気信号を記録するものです。これが最も普通に行われるてんかんのための検査で、脳の電気的活動の異常を検出することができます。てんかん患者はけいれん発作の起こっていない時にも、正常な脳波パターンに変化を示すことがよくあります。この種の検査はてんかんの診断にとても有効なのですが、それほど簡単なものではありません。けいれん発作を起こした後でさえ正常な脳波パターンを示す患者もいます。また他の症例では、脳波では検出できないような脳の深い部分に異常な電気信号が発生していることがあります。その上てんかんを持たない多くの人々が、脳波上に異常なパターンを示すことだってあるのです。脳波検査は可能であれば発作の後24時間以内に行うべきです。さらに理想を言うと、患者が覚醒しているときと同じように、睡眠中の脳波検査も行うべきです。というのは、睡眠中の脳の活動は覚醒時とは全く異なるからです。

脳波検査と連動してビデオ撮影を行うことによって、患者のけいれん発作の性状を把握することができます。心臓の不整脈やナルコレプシーのようなてんかんに似た疾患を除外するときにも、この方法は有効です。

*脳スキャン
脳スキャンを使った検査は、てんかんの診断の中で最も重要な検査の一つです。最も頻繁に行われる検査としては、CT(コンピューター断層撮影)、PET(陽電子放射断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像法)があげられます。CTとMRIは脳の構造を明らかにすることによって、脳腫瘍、嚢胞、その他構造上の異常を検出することに有益となります。PETとfMRI(機能的MRI)と呼ばれるMRIを利用した検査は、脳の活動を記録しその働きの異常を検出することに役立ちます。SPECT(光子放射断層撮影)は比較的新しい脳スキャン法で、時々脳内のけいれん発作の焦点を特定するときに使われます。

脳磁波(MEG)と呼ばれる実験段階の脳スキャンが時に使用されることもあります。MEGは神経細胞が生み出す磁力信号を検出し、脳内の様々な部分の神経活動を記録することによって脳の機能を画像化します。MEGは概念的にはEEGに似ていますが、EMGは電極が不必要で、EEGよりも脳の深部の信号を検出することができます。磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)と呼ばれる脳の生化学的過程を検出できる実験的装置や、赤外線スペクトロスコピーという脳組織の酸素レベルを検出できる技術が利用されることもあるでしょう。

*病歴
症状や発作の継続時間などの詳細な病歴を聴取することは、患者がてんかんであるかどうかや、またどんな種類の発作であるのかを診断する上で、現在でも最も有力な手段の一つとなっています。けいれん発作についてや患者の持つ現在と過去の病歴や症状について、医師たちは質問するでしょう。けいれん発作を起こした患者は何が起こったのかよく覚えていないことが多いので、介護者によるけいれん発作についての説明がこの評価のためには極めて重要となります。

*血液検査
特に小児期の患者の場合には血液検査がよく行われます。こうした血液検査によって、けいれん発作を合併する代謝性あるいは遺伝性疾患のスクリーニングを行います。また感染症、鉛中毒、貧血、糖尿病など、けいれん発作の原因や誘因となっている基礎疾患をチェックすることにも役立ちます。

*発達・神経・行動学的検査
運動機能、行動、知的能力を測定するために開発された検査によって、てんかんが患者にどのような影響を与えているかについて医師たちは評価します。こうした検査は、患者のてんかんの種類を判定することにも役立っています。

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8.てんかんの予防

シートベルトや自転車用ヘルメットの着用、チャイルドシートの使用など、頭部外傷その他の事故予防策を実践することによって、多くのてんかんの症例は防ぐことができます。1度目か2度目のけいれん発作後や熱性けいれん後の内服薬の処方によってもてんかんを予防できる場合があります。妊娠期間中の高血圧や感染の治療など胎児期の良好な管理によって、後々のてんかんやその他の神経疾患の原因となる胎児の脳への障害を予防できます。心臓疾患、高血圧症、感染症、その他青年期と老年期の脳に影響を与える疾患の治療も、多くのてんかん発症の予防になる可能性があります。最後に、多くの神経疾患の遺伝子を同定することによって、遺伝子的スクリーニングと胎児期診断が可能となり、その結果多くのてんかん症例を予防できるようになるかもしれません。

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9.てんかんの治療

患者のてんかんの種類を正確に診断することが、効果的な治療を行うためには最も重要です。てんかんの治療法には数多くの種類があります。現在利用可能な治療法によって、約80%のてんかん患者は少なくとも一定期間の発作コントロールができます。しかし残された20%(合衆国では約60万人のてんかん患者)は発作の軽快が得られておらず、また別の40万人の患者は、現在の治療によって十分な寛解を得ていると感じていません。こうした統計を見ると、さらに効果的な治療法の必要性が明白です。

てんかんの治療を行う医師たちは、医療界の様々な分野からの出身者で成り立っています。神経内科医、小児科医、小児神経内科医、一般内科医、家庭医などに加え、神経外科医やてんかんを専門に治療するてんかん内科医もこれに含まれています。てんかんの専門的な治療を受ける患者は、大規模な医療センターや一般病院の神経内科、或いは神経内科専門の開業医で診療を受けます。大学病院に併設されるてんかん治療センターは、治療と同時に研究も行っています。

てんかんの診断が行われた時にはできるだけ早期に治療を開始することが大切です。けいれん発作やそれに引き続く症状が一旦固定してしまうと、てんかん治療に際し内服や他の治療が効果を示しにくくなるという事を研究は示唆しています。

<<内服治療>>
現在に至るまで最も一般的に行われてきたてんかん治療は、抗てんかん薬の内服治療です。初めて使用された有効な抗てんかん薬は臭化化合物で、1857年イギリスのチャールズ・ロコック卿によって導入されました。現在20以上の抗てんかん薬が市場に出ていますが、それぞれに異なった有効性と副作用を持っています。どの薬を選択し、どの程度の用量で服用するかについては、患者のてんかんの種類、ライフスタイルや年齢、発作の起こる頻度、また女性の場合には妊娠の可能性など、様々な要因によって異なります。てんかんの患者は医師のアドバイスに従い、内服薬に関しての情報を十分に共有するべきです。

他の治療法が必要となるてんかんでない限り、新しく発症したてんかん患者に対しては、カルバマゼピン、バルプロ酸、ラモトロジン、オクスカルバゼピン、フェニトインなどがよく最初に処方されます。欠神発作に対しては、エトスクシミドが最初の治療薬となる場合が度々あります。よく処方されるほかの薬には、クロナゼパム、フェノバルビタール、プリミドンなどがあります。比較的新しいてんかん薬に、チアガビン、ガバペンチン、トピラメート、レベチラセタム、フェルバメートがあります。その他の薬は基本薬に併用の形で使用されるか、基本薬では効果の認められない難治性のてんかんに使用されます。フォスフェニトインなどの少数の薬剤は、けいれん重積(「てんかんに伴う特別な状態」のセクションを参照)などの特別の状態に対し病院内だけの使用が認められています。家族によって簡単に見分けることのできる典型的な反復性のけいれん発作の患者達のために、肛門から投与できるジアゼパムという薬の坐薬が利用できます。この投与法によって、けいれん発作が遷延し反復することによってけいれん重積にまで発展することを防止できるかもしれません。

多くのてんかん患者は、一種類の薬を適量服用すればけいれん発作のコントロールができます。複数の薬を服用すると易疲労感や食欲減退などの副作用が増強するので、医師たちは可能な限り、一種類の薬だけを使う単一処方を行うのが普通です。もしも単一処方でけいれん発作が十分に制御できない場合には、複数の薬の同時に処方されることがあります。

患者の一日の服薬回数は、一般にその薬剤の半減期(投与量の半分が体内で代謝されたり分解されたりする時間)の長さによって決められます。フェニトインやフェノバルビタールのように一日一回の服用で良いものもありますが、バルプロ酸のように一日に2-3回に分けて服用しなければならないものもあります。

抗けいれん剤の多くの副作用は、疲労、眠気、体重増加などの比較的軽いものです。しかしアレルギー反応のような重症で命にもかかわる重大な副作用もあります。抗てんかん薬の服用によって患者が抑うつ状態や神経症になることもあります。もしも薬を服用して発疹が出た時や、抑うつ状態になったり正常な思考ができなくなったりした時には、患者は直ちに医師と相談するべきです。医師とすぐに相談するべきであるその他の危険な兆候は、重度の疲労感、ふらつきなどの運動障害、言葉の呂律障害、などです。てんかんの患者は、抗てんかん薬が他の薬物との相互作用を起こすことによって、有害事象が起こりうるということに注意を払わなければなりません。こうした理由によりてんかん患者は、自分が服用している薬について常に担当医に告知するべきです。女性患者はいくつかの抗てんかん薬が経口避妊薬の効力を減弱するという知識を持つべきで、この可能性について医師と相談する必要があります。

年齢を重ねることによって患者の薬物に対する感受性が増加することがあるので、投薬量が適正であるかどうかを判定するために、薬物の血中濃度を時々測定する必要があります。また薬物の効果が時間経過とともに減少することもあり、投与量を調整しないとけいれん発作が悪化することもあります。特にグレープフルーツジュースのような柑橘類が、多くのの薬物の分解に影響することを患者は知っているべきです。これが原因で体内の薬物濃度が上昇し、副作用が増強することがあるからです。

抗てんかん薬を服用する患者は、薬の効果が十分でなかったり予期せぬ副作用が出現したりした場合には、主治医に相談するか別の医師にセカンドオピニオンを求めるべきでしょう。

*抗てんかん薬の投与量の調整
新しく抗てんかん薬の服用を開始した時には、最良の効果を得るために投与量を調整することが重要です。患者によって薬物に対する反応は様々ですし、時には予想外の反応をすることもありますから、副作用を最小限に止めつつ最大の効果を引き出すためには、適正な薬と適確な投与量を見極めるまでに少し時間を要します。一つの投与量で全く効果が現れなかったり副作用が出現したりする薬の場合でさえ、別の投与量に変えることによって良好な効果を得られることがあります。普通医師たちは新しい薬のときには少量の処方から始め、最良の投与量を決定するために血中の薬物濃度を測定します。

多くの抗てんかん薬には後発品が利用できます。後発薬に含まれる化学物質はブランド品と全く同じですが、製造法が異なるために体内での吸収や分解には差異の現れることがあります。そのため薬を後発品に切り替える前に、患者は必ず医師と相談するべきでしょう。

*内服の中止
抗てんかん薬の服用を継続して丸2年間発作が起こらなかった場合には、患者に服薬を中止するように指示する医師たちがいます。一方で4-5年間経過観察をしたほうが良いと感じている医師たちもいます。服薬を中止するときには必ず医師の忠告と意見に従ってください。医師が抗てんかん薬を処方する限り、服薬を継続することが何よりも大切です。また服薬を間違えた時にはどうするべきかについて、医師や薬剤師に相談するべきです。発作の無かった人達に新たな発作を発生させる最も頻度の高い原因は、医師との相談もなく勝手に薬を中断することなのです。突然の休薬によるてんかん発作は、大変に深刻な発作となる場合があり、てんかん重積に陥ることさえあります。さらには、てんかん発作を放置すると神経細胞が損傷を受けて、将来治療が困難になるという研究発表もあります。

幸運にも服薬を中断できる可能性は、患者の年齢や発作の種類によって異なります。服薬によって発作がコントロールできた小児の場合には、半数以上が新たな発作を起こすことなく服薬を中止することができます。服薬を継続して2年以上発作がない成人の場合、68%の人が新たな発作を起こすことなく服薬を中止できたという研究報告があります。また、3年以上発作がない場合には、75%の人が服薬中止できました。しかしながら、てんかんの家族歴のある人々、複数の薬を服用している人々、部分発作のある人々、服薬中に脳波上の異常を認める人々などの場合には、服薬を中止できる確率はそれほど高くはありません。

<<外科的治療>>

服薬によっててんかん発作がうまくコントロールできない場合には、医師は手術治療の是非を考慮するように薦めます。てんかんの手術は、大病院で複数の医師たちのチームによって行われます。手術によって患者が改善するかどうかの判断は、患者のてんかんの種類によって行われます。また脳内の病巣の位置や、その部分が日常生活にどの程度関与しているかについても検討されます。会話や言語、聴覚やその他の大切な機能に必要な脳の領域を手術することは、外科医は普通避けることになります。和田テスト(アモバルビタールという薬物を頸動脈に注入する検査)などの検査によって、医師は言語や記憶の中枢の領域を認定します。手術に先立ちてんかんの原因病巣をピンポイントに特定するために、医師は患者の詳細な検査を行います。また脳の表面の活動状況を記録するために、電極を脳表に設置することも行われます。これは外部で行う脳波よりも正確な情報を得るためです。

1990年に行われたNIH主催のてんかん手術に関する学術会議において、手術によって治療できる三つのてんかんのカテゴリーが結論付けられました。それは何かというと、部分発作、他の部分に拡大する前に部分発作の形で始まる発作、そして小児片麻痺(ラスムッセン脳炎など)を伴う片側の多焦点性発作です。患者が2種か3種以上の薬の服用を行っても発作が消失しない場合や、損傷や機能障害を起こしててんかんの原因となっている脳の部分が明白な場合に限って、手術治療は行われます。

2000年に出版された研究報告では、長期間継続する側頭葉てんかんの患者における手術治療と抗けいれん剤による内服治療との1年後の比較が行われました。その結果の示すところによれば、手術を受けた患者の64%が発作から解放されたのに対し、内服治療だけの場合には8%しか発作から脱却できませんでした。この研究報告やその他の臨床試験の結果を踏まえ、現在アメリカ神経内科学会(AAN)では、投薬によって治療できない側頭葉てんかんに対し手術治療を推奨しています。しかし研究報告やAANのガイドラインには、手術治療を考慮するに至るまでの発作の継続期間や発作の重症度、そして何種類の薬剤が使用されたのかについての言及がなされておりません。側頭葉てんかんに対する手術治療をどのタイミングで行うべきかについて、全国での研究が現在進行中です。

手術治療の良い適応と考えられる患者に対して使用可能な薬剤で良好な発作治療ができない時には、手術治療はできるだけ早期に行われるべきであると専門家は考えています。たとえ手術が成功したとしても、長期間発作の継続した患者が発作の無い生活に十分適応していくことには、かなりの困難が伴うかもしれません。患者には独立した生活を確立する機会がなかったかもしれませんし、初期の治療に伴い学校や職場から隔離されていたかもしれません。手術治療が行われる場合には、患者が直面するであろう心理的、社会的、職業的問題への対処を支援することのできるリハビリの専門家やカウンセラーの援助を受ける必要があります。

手術治療は患者の発作を著しく軽減し治癒させることもできますが、どんな手術にも危険性(普通は低い)が伴うことを忘れてはなりません。手術治療の最適な候補となる患者であっても、てんかん手術によって必ず発作が減少するとは限りませんし、認知面や人格面での変化の起こる可能性があります。手術経験や成功率、合併症の確率などについて、患者は担当の外科医師に充分質問するべきでしょう。

たとえ手術によって発作が完全に止まったとしても、脳を一定期間安定させるために抗けいれん剤を服用する必要があります。一般に術後2年間の内服治療が推奨されています。

*基礎疾患の手術治療
外科的に治療可能な脳腫瘍や水頭症などの発作の原因となる疾患が存在する場合には、こうした原因疾患の手術が行われます。多くの場合には、原因疾患が成功裏に治療されれば、患者の発作は消失します。

*けいれん発作の焦点の切除手術
てんかん手術で最も頻繁に行われる術式は、てんかんの焦点、即ち発作の起源となっている脳の一部を切除するものです。医師はこの種の手術を脳葉切除とか病巣切除と呼んでいますが、脳のただ一つの領域から発生する部分発作だけに適応される術式です。患者の病巣が小さくて明瞭な場合に、術後の発作消失の得られる可能性が一般的には高いといえます。てんかんやけいれん発作の焦点が明瞭な場合、脳葉切除によって55−70%の成功率となります。最も頻繁に施行される脳葉切除は側頭葉の切除で、側頭葉てんかんの患者に対して行われます。側頭葉切除によって、70−90%という高い確率で著明な発作の減少や完全寛解が得られます。

*軟膜下離断術
切除不可能な脳の部分に発作の焦点があるときには、軟膜下離断術という術式が行われます。この術式は1989年から一般的に行われるようになりましたが、発作が脳の他の部分に伝播しないように脳の表面に複数の切り込みを入れるもので、患者の正常な機能はそのまま保つことができます。この術式を行うことで、約70%の患者が満足な発作コントロールを得ることができます。

*脳梁離断術
脳の左右の半球を連繋する神経ネットワークを切断する脳梁離断術は、一つの半球から他の半球に拡大する重篤な小児期の発作に対して行われます。脳梁離断術によって脱力発作やその他の全般性発作に終止符を打つことができます。しかしながら、この手術によって原因病巣のある半球の発作を止めることができないばかりか、術後に部分発作の頻度が増加することもあります。

*半球摘出術と半球離断術
この手術法では半分の大脳皮質を切除します。ラスムッセン脳炎、スタージウェーバー症候群、半球巨大脳症などで発生する一方の大脳半球だけの障害が存在し、しかも薬物治療が効果を示さない小児期の発作に対してこの手術法がとられます。この手術は大変に侵襲的であり最後の手段となるものですが、子供たちはこの手術から大変によく回復し、彼らの発作も普通よく停止します。強力なリハビリテーションを行えば、子供たちは殆ど正常な日常生活に戻ることもしばしばあります。完全回復を得るのは極めて若年の子供たちのため、半球切除は可能な限り小児期の早期に行うべきです。そのため13歳以上の子供には殆ど行われません。

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10.治療装置による治療

迷走神経刺激装置は、内服治療が充分に功を奏しない発作を持つ人たちの治療として、1997年に合衆国食品薬物局(FAD)の認可を受けました。迷走神経刺激装置は胸部の皮下に埋め込まれる電池で作動する器具で、ペースメーカーに大変よく似ており、頸部下半の部位で迷走神経に接続されます。この装置は、迷走神経を通して短時間の電気刺激を脳に送ります。この装置は平均で20−40%発作を減少させます。患者はこの装置を入れても抗てんかん薬の服用を止めることはできませんが、発作の回数が減少し、服薬量を減ずることができます。迷走神経刺激装置の引き起こす副作用は軽微ですが、嗄声、耳痛、咽頭痛、嘔気などがあります。刺激の強さを調整することによって副作用の殆どは消失させられるのですが、嗄声だけは持続します。迷走神経刺激装置の電池は約5年ごとに交換する必要があります。この交換には簡単な手術を要しますが、外来処置として行うことができます。

将来いくつかの装置がてんかん治療に使えるようになります。経頭蓋磁気刺激(TMS)の研究が行われており、この方法では、脳活動に影響を与えて発作を減少させるために、頭部に強力な磁場を加えます。また脳の特定部分に薬物の注入を行う装置の装着も期待されています。

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11.食事治療

研究によるといくつかの症例では、厳密な高脂肪、低炭水化物の食事を継続することによって発作の回数が減少します。この特異な食事治療はケトン生成ダイエットと呼ばれていますが、肉体は生存のために炭水化物に代わって脂肪を分解することになります。この状況をケトン症と呼びます。一つの研究によると、内服治療で充分な効果の認められなかった150人の小児患者において、ケトン生成ダイエットによって四分の一の患児が90%以上の発作減少を得ることができました。また残りの50%の患児では、50%以上の発作減少を示しました。さらにいくつかの症例では、数年後にこの食事治療を中止しても発作が起こりませんでした。一般的ではない限られた食品だけを摂取しなければならないので、ケトン生成ダイエットは継続することが容易ではありません。この治療よって起こりうる副作用は、栄養不足による発育障害と、腎結石の原因となりうる高尿酸血症です。ケトン生成ダイエットを試すときには、重篤な栄養障害に陥らないように栄養士のガイダンスを受けなければなりません。

なぜケトン症によって発作が抑制されるのかについては、研究者にもよく判っておりません。ある研究によれば、ケトン症によって発生する副産物のbeta-hydroxybutyrate(BHB)が動物で発作の抑制効果を示しました。もしBHBが人間でも有効であれば、ケトン生成ダイエットと同じような効果を示す薬物を開発することができるかもしれません。

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12.その他の治療戦略

バイオフィードバック(この方法では個々人が自分の脳波をコントロールすることを学ぶ)がてんかん発作の抑制に有効かどうかについて研究しているグループがあります。しかし、この種の治療法については議論の多いところで、多くの研究では残念な結果しか得られておりません。ビタミン類の大量摂取は発作抑制の役に立たないどころか、いくつかの症例では逆に有害なことさえあります。しかし良質な食生活とある程度のビタミン補給、特に葉酸の補給は、いくつかの先天奇形や薬物による栄養障害の頻度を減ずるかもしれません。メラトニンなどのビタミン以外のサプリメントは逆効果で、危険である可能性があります。メラトニンが小児の発作に有効であるとしている研究報告もありますが、他方ではメラトニンによって発作の危険性がかなり増大するという報告もあります。健康食品の店に並ぶビタミン剤以外の多くの補助食品は、FDAによって規制されているものではなく、本当の効果や他の薬品との相互作用が殆ど解明されておりません。

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13.てんかんが日常生活に与える影響

多くのてんかん患者は、外見的には正常な生活を営んでいます。約80%の症例は現代医学によって救われており、数か月から数年の間発作を起こさないこともあります。しかしこの疾患は、発作のある患者やその家族と友人たちの日常生活に影響を与えています。治療に抗する重篤なてんかん症例の場合には平均余命は短いですし、特に発作が小児期の早い段階で発症すると、認知機能障害となる可能性が高くなります。こうした障害はてんかん自体によって起こるというよりも、てんかんの原因となる基礎疾患やてんかんの治療によって発生する可能性があります。

*行動と感情
てんかん症例では、特に小児期の場合、行動異常や感情の問題を示すことが稀ではありません。こうした問題はてんかん発作に伴う心の混乱や欲求不満によって発生します。また学校や他の社会生活の中でのからかいやいじめ、無視などの結果生じることもあります。小児期の場合こうした問題の発生は、両親が前向きな人生観や自立心を励ましたり、普段より大きな関心を持って否定的な行動を制したり、子供の欲求や感情をうまく調整したりすることによって、最小限に抑えることができます。家族は患者への非難や侮蔑を避け、てんかん発作を容認し共に生きていくことを学習しなければなりません。カウンセリングを受けることが、てんかんに対処する家族にとって役立つかもしれません。いくつかのてんかん支援グループもまた、てんかん患者とその家族に対して、彼らの体験や欲求不満、そして疾患に対処する上手な方法についての情報を与えてくれます。

てんかん患者は自信欠如や絶望感に陥り易く、自殺を起こす可能性が高くなります。てんかんに対する理解不足と不快感によって周辺の人々の残酷な仕打ちや無視行動が発生し、それに反応することによってこうした問題は起こります。てんかん患者の多くは、また発作が起こるのではないかという恐怖に常に苛まれて生活しているのです。

*運転とリクリエーション
多くのてんかん患者は発作の危険性があるために自主行動を制限されますが、運転能力については特に制限を受けます。大半の州とワシントンDCにおいては、ある一定期間(数ヶ月から数年の差異はあるものの)発作を起こしていないことを証明する文書を提出しない限り、てんかん患者に運転免許証は交付されません。いくつかの州ではこの条例に例外を設けており、その例外には、発作に意識消失が伴わない場合、睡眠時にのみ発生する場合、長時間の前兆や警告症状があって発作が起こりそうな時には運転を避けることの出来る場合、等があります。最終発作からの時間経過が長いほど、てんかんが原因となる交通事故の発生率は低下するということが明らかとなっています。ある研究報告によれば、最終発作から丸1年を経過するてんかん患者の事故発生率は、それより短期間の患者と比較すると93%低いということです。

発作の危険性によって患者のリクリエーションにも制限が加わります。例えばてんかん患者は、一瞬の不注意が事故の原因となるため、スカイダイビングやモーターレースのようなスポーツに参加することが出来ません。また水泳やヨット競技なども特別な注意が必要ですし、誰かの監視下に行われなければなりません。しかしジョギング、サッカーなど、その他の多くのスポーツは、てんかんの患者でも充分安全に行うことが出来ます。スポーツの種別については特に検討されている訳ではありませんが、スポーツによって発作の頻度が増加するという研究報告は今までのところありません。逆にある種のてんかん発作では、規則的な運動により発作コントロールの改善する事が証明されています。スポーツは行う人にとっては日常生活に活力を与えてくれるものですが、てんかん患者とそのコーチや指導者は、安全性に対し充分な注意を払って臨む必要があります。脱水症や過剰練習、低血糖などのスポーツによって起こりうる現象については、発作の危険性を増加させる可能性がありますので、できるだけ避けるようにする事が重要です。

*教育と仕事
てんかんやその他のハンディキャップをもつ人たちを、雇用、教育、リクリエーションなどの現場から発作を理由に拒絶することは、合衆国内では法律によって禁じられています。しかし調査によって、てんかん患者は高校で56%、大学ではたった15%しか卒業できない事が判明しました。これは普通の人に比べるとかなり低い数値です。同じ調査によると、労働年齢に達したてんかん患者の25%が失業状態にあるそうです。こうした数値を見ると、学校や職場では未だにてんかん患者に対する明らかな障壁のあることが推測できます。運転免許への制限が多くのてんかん患者の雇用機会を減少させますし、患者の多数は社会の中で遭遇する無理解やプレッシャーに対処することに困難を感じています。抗けいれん剤による集中力や記憶力の低下が要因となることもあります。小児患者の場合には学習に補習が必要となる場合があるでしょうし、指示や情報を繰り返して伝えることも要請されます。クラスにてんかん児童のいる場合にどうすべきかについての情報を教師に与えるべきでしょうし、両親も学校と協力して、子供に必要とされる理にかなった手段を見つけるように努力するべきです。

*妊娠と育児
てんかんを持つ女性の場合、妊娠できるのかどうか、また健康な子供を産むことができるのかどうかについて、よく関心が寄せられます。この点について普通は問題となることはありません。いくつかの抗けいれん薬やある種のてんかんでは、性行為に対する欲求を減弱するものがありますが、殆どのてんかん患者は妊娠可能です。さらに、てんかんを有する女性の90%以上が正常で健康な子供を持つ可能性があり、先天的な奇形が発生する危険度は4−6%に過ぎません。てんかんの両親を持つ子供がてんかん発作を発生する確率は、明らかな遺伝的要素がなければたったの5%です。自分のてんかんが遺伝性のあるものかどうかについて心配のある方は、危険性がどの程度のものかどうかについて遺伝学的カウンセラーに相談してもよいでしょう。妊娠中に行う羊水検査や高感度の超音波診断によって、胎児が正常な発育をしているかどうかを確認できますし、異常が疑われる場合には、母体血液中のアルファ・プロテインの検査が様々な出産前の疾病診断に利用されています。

妊娠と出産に伴う様々な危険性を減少させるために、妊娠前と妊娠中に女性が払うべき注意点がいくつかあります。妊娠を考慮している女性は、てんかん発作や内服薬の継続に伴う危険性について、まず主治医とよく相談して学ぶ必要があります。抗てんかん薬、特にバルプロ酸、トリメチドン、フェニトインなどは、先天奇形の、例えば口蓋裂、心臓奇形、手足の指の欠損などの危険率を高めることが知られています。こうした理由から、妊娠中の内服薬を変更するように医師から薦められることがあります。薬を適切に変更するためには、妊娠する前に可能な限り十分な時間を取って、徐々に新しい薬へと移行し、血中濃度が安定するかどうかをチェックする必要があります。妊婦用のビタミン剤(特に葉酸は出生時の奇形を減少させます)の服用は行うべきで、これは妊娠前から行ったほうがよろしいでしょう。医師と危険性回避のための十分な話し合いをする前に妊娠が判明した場合には、直ぐに医師に相談してください。その場合でも予防可能な発作を起こさないようにするために、それまで処方されていた薬の服用は継続するべきです。妊娠中のてんかん発作は、特に発作が重篤なときには、発育中の胎児に障害を与えたり流産に繋がったりすることがあります。しかしながら、妊娠中に発作を起こす多くの女性達が、正常で健康な子供を出産していることも事実です。

てんかんのある女性は、たとえ内服薬に変更がなくても、妊娠期間中に発作の頻度が変化することを時々体験します。約20−40%の女性は、妊娠中に発作の頻度が増加しますが、一方で妊娠中に発作の頻度が減少する女性もいます。妊娠中の発作の頻度は様々な要因から影響を受けますが、その影響する要因の一つに、内服薬の血中濃度を希釈する可能性のある循環血液量の増加、が挙げられます。ですから妊娠中やその後には、抗てんかん薬の血中濃度を密に測定する必要があります。そして投薬量をその結果に従い調整していく必要があります。

妊娠したてんかんのある女性は、出産前に必要なビタミンを摂取し、睡眠不足によって誘発される発作を回避するために十分な睡眠をとる必要があります。また胎児が抗てんかん薬に晒されることによって生じる、新生児血液凝固異常症という子供に発生する血液凝固障害のリスクを軽減するために、妊娠34週以降にはビタミンKのサプリメントを服用するべきでしょう。さらに出産前には十分な療養を行い、タバコ、カフェイン、アルコール、違法薬物などの摂取を避るとともに、できるだけストレスを回避する必要があります。

てんかん女性の陣痛や分娩はふつう正常に進行しますが、出血、子癇、早期破水、帝王切開などのリスクは若干高いようです。陣痛期の発作のリスクを軽減するために、医師によって抗けいれん剤を静脈内に注射したり、薬の血中濃度を測定したりすることができます。出産後に母体の抗てんかん薬が消褪することによって発生する症候が、新生児に時々現れますが、こうした症候は数週間から数か月の間に自然に消失し、重篤な障害や長期に及ぶ影響を残すことは普通ありません。投与量を減少させるために、母体の抗てんかん薬の血中濃度は分娩後も頻回に測定するべきでしょう。

抗てんかん薬の服用を行っても、子供の母乳栄養を諦める必要はありません。母乳の中に分泌される抗てんかん薬はほんの微量に過ぎず、子供に害を及ぼすことは普通ありませんし、胎児が子宮内で晒される量と比べれば微々たるものなのです。稀なケースとして新生児の活動性低下や摂食不良が見られることがあり、そうした場合には密に経過観察を行う必要があります。しかしほんの稀なケースを除けば、母乳栄養の利点は危険性を大きく上回ると考えられています。

てんかんを持つ女性は、抗てんかん薬が経口避妊薬の効果に影響を与えることを知っておくべきでしょう。妊娠回避のために経口避妊薬を使用する女性は、主治医と相談すれば、抗てんかん薬を変更してもらうことができますし、予定外の妊娠を回避する別な方法についての情報を得ることができます。

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14.てんかんに伴う特有な危険性

殆どのてんかん患者は充分に活動的な生活を送ることができるのですが、生命危機に晒される二つの状態に陥る危険があります。それは、けいれん重積と原因不明の突然死です。

*けいれん重積
けいれん重積というのは、けいれん発作が異常に遷延したり、発作の間歇期にも意識が十分に戻らなかったりする、生命危機を孕んだ状態のことです。発作がけいれん重積となるのに要する継続時間について正規の定義はありませんが、5分以上けいれん発作が継続した場合には、実際的な理由からけいれん重積として治療するべきであると考えられています。

合衆国内では年間約195000人がけいれん重積を発症し、そのうち約42000人が死亡します。てんかん患者ではこのけいれん重積になる危険性が高いのですが、この状態に陥る約60%の患者には、けいれん発作の病歴が認められないことも事実です。こうした症例には、腫瘍や外傷やその他脳に影響を与え、それ自体が致命的である基礎疾患の存在することが多いようです。

多くの発作は緊急の医学的治療を必要としませんが、5分以上発作が継続した場合にはけいれん重積である可能性があり、直ぐに救急救命室に搬送するべきです。けいれん重積の患者は、可能な限り早期に治療を行うことが重要です。研究報告によると、発症から30分以内に治療が開始された80%の患者の発作が治癒したのに対し、治療開始までに2時間以上経過した患者の場合には、たった40%しか治癒することができなかったということです。けいれん重積に対し、病院の医師によって種々の薬で治療を行うことができ、必要に応じて酸素投与などの救命処置を行うことができます。

けいれん重積の患者が常に重度のけいれん発作を伴うわけではありません。その代りに、けいれんとは異なるてんかん発作が反復性か遷延性に起こります。こうしたてんかん重積患者の場合、普段は精神的異常が見られないにも拘らず、混乱状態や興奮状態が遷延して観察されます。この種の発作は、けいれん性重積発作ほど重篤には見えませんが、緊急の治療が必要とされます。

*原因不明の突然死
その理由はまだよく判っておりませんが、明確な死因の特定できない突然死のリスクが、てんかん患者では高くなっています。この病態を原因不明の突然死と呼んでいますが、てんかんの無い人でも起こすことがあります。しかしてんかん患者では、発症のリスクは約2倍高くなります。なぜ原因不明の突然死が起こるのかについては、研究者にもよく判っておりません。2種以上の抗けいれん剤の使用が危険因子であると、或る研究報告は示唆しています。しかし複数の薬物使用が突然死の原因であるのかどうか、或いは、複数の薬物使用をしている患者はより重症のてんかんであるために死亡率が高くなるのかどうか、まだよく判っておりません。

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15.けいれん発作を目撃した時にはどうすべきか

誰かがけいれん発作や意識消失を起こしているところをもしあなたが目撃したならば、以下の方法が役に立つでしょう。

1.液体や吐物で窒息しないように、患者を横向きにしましょう。
2.患者の頭の下にクッションを入れましょう。
3.頸部周辺のきつい衣服は緩めましょう。
4.患者の気道を確保しましょう。もし必要ならば、患者の顎を緩やかにつかんで頭を後ろに傾けてください。
5. 危険でない限り患者の動きを抑制してはいけません。
6.たとえ薬や液体であっても、患者の口には何も入れてはいけません。こうした行為は窒息の原因になりますし、患者の顎や舌や歯を損傷する可能性があります。
7.発作時に患者自身がぶつかる可能性のある鋭利な物や固形物を取り除きましょう。
8.必要に応じて医師や救急隊員に説明できるように、発作がどれくらい継続したか、またどんな症状が現れたかについて記録しましょう。
9.発作が終わるまで患者から離れないようにしましょう。

<<次のような場合には119番してください。>>

・患者が妊娠していたり、糖尿病である場合。
・水中で発作が起こった場合。
・5分以上発作が継続した場合。
・発作が終わっても患者が再び呼吸しないか意識が戻らない場合。
・意識が戻らないうちに新たな発作が起こった場合。
・発作によって身体に外傷を負った場合。
・発作が初めてか、そう考えられる場合。もし疑いがあれば、てんかんやけいれん発作のあることが記載された医学証明カードや装飾品を、患者が身に着けているかどうかを調べてください。

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16.結語

てんかんを持つ多くの人々は、生産的で発展的な生活を送っています。この20年間の医学的な研究の進歩によって、てんかんとけいれん発作についての理解は、かってないほどに一段と深まりました。脳のスキャンやその他の技術によっててんかんの正確な診断ができるようになり、患者がどのタイミングで手術治療を受ければ良いか判るようになったのです。今では20種以上の治療薬と様々な手術治療が利用可能になったおかげで、てんかんを持つ人々の大半が良好な生活を送るようになっています。その他の治療としては、ケトン体ダイエットと初めての移植治療器である迷走神経刺激装置があります。いくつかの種類のてんかんや熱性けいれんなどの原因となる遺伝子についての研究は、てんかんに対する理解を一層深めるとともに、将来のてんかん治療に、より効果的で新しい治療法をもたらすことになるでしょう。

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